#003日本とアメリカがそろって円を買い支えた「為替介入」
「2つのニュース」です。今日は「為替介入」について、1つの事実、2つのニュースをお届けします。
日本とアメリカがそろって円を買い支えた、というこの出来事を、朝日新聞は「日本がアメリカを動かした」という視点で、日経新聞は「アメリカ側にも計算があった」という視点で伝えました。起きた事実は1つであっても、どちらの視点で語るかによって、日米それぞれの思惑が見えてきます。
ポイントQ&A
この号のポイントを、3つのQ&Aで整理します。
Q1: 1ドルが140円から163円になったとき、円の価値は上がったと思いますか? 下がったと思いますか?
A: 下がりました。同じ1ドルと交換するのに、前より多くの円を出さなければならなくなったからです。これが「円安」で、大人でも一瞬迷う問題です。
Q2: アメリカは、なぜ円安への介入を手伝ったのでしょうか?
A: カギは、日本が外国の中でいちばん多くアメリカ国債を持っている国だということです。介入のお金を作るために日本がアメリカ国債を売ると、アメリカの金利が上がってしまいます。金利が上がると、住宅ローンを組んでいるアメリカの家庭など、暮らしの側が困ります。だからアメリカには、日本に国債を売らせずにすむよう手を貸す理由がありました。「友情の証し」の裏にあった計算です。
Q3: もしあなたが日本の総理大臣なら、円安と円高、どちらが望ましいと考えますか?
A: 実は、どちらが正解と決まっているわけではありません。円安は、輸出をする会社や日本に来る観光客には追い風ですが、食べ物や燃料など輸入品の値段が上がり、毎日の暮らしには重くなります。円高はその逆です。困るのは、円安か円高かそのものよりも「行き過ぎ」で、今回の介入も、およそ39年半ぶりの水準まで進んだ円安にブレーキをかける動きでした。
出典 (参照したニュース)
文字起こし (動画のナレーション全文)
タイトルこんにちは。「2つのニュース」です。今日は「為替介入」について、1つの事実、2つのニュースをお届けします。この動きを、朝日新聞は日本がアメリカを動かしたという視点で、日経新聞はアメリカ側の計算という視点で伝えました。この2つのニュースを、読み比べます。
1つの事実7月31日、日本とアメリカがそろって、円を買う為替介入をしました。為替介入とは、国が多額のお金を売り買いして、通貨の値段を動かすことです。日米が協調して動くのは15年ぶり、円を買うためでは28年ぶりです。7月下旬、1ドルは163円台。およそ39年半ぶりの安値でした。日本は4月末から5月に、1か月で過去最大の11兆7349億円を使いましたが、円安は止まりませんでした。今日読み比べるのは、朝日新聞と日経新聞の記事です。ここまでの報道は、2つとも同じです。
朝日新聞は、何を伝えたかまず、朝日新聞は、何を伝えたか。朝日新聞は、日本がアメリカを動かした、という視点で伝えました。見出しは「インパクト大の『完成形』」。「日米通貨同盟の完成形だ」は、財務省の財務官の言葉です。単独では効かなかった介入が、アメリカと組むことで市場に通じた。その意味を伝えています。
日経新聞は、何を伝えたか続いて、日経新聞は、何を伝えたか。日経新聞は、アメリカ側の計算を、記事の視点にしました。アメリカは、日本が持つアメリカ国債を担保にドルを貸し、日本がそのドルで円を買えるようにしました。トランプ大統領はこれを「友情の証し」と呼びました。でも日経新聞は、日本がアメリカ国債を売るとアメリカの金利上昇を招くため、その事態を避けたい計算があった、と書いています。
2つの視点・まとめどちらの新聞も、日本側とアメリカ側の両方を取材しています。別々の出来事を伝えているわけではありません。しかし、どちらに視点を置いたかで、同じ出来事が違って見えてきます。アメリカに助けてもらった話と読むか、日米が互いに必要だった話と読むか。今日は「為替介入」に関する、1つの事実、2つのニュースでした。
7月31日、日本とアメリカがそろって、円を買う為替介入をしました。片山さつき財務相が8月3日に正式に発表し、同じ日に日米で共同の声明も出しています。
為替介入とは、国が多額のお金を売り買いして、通貨の値段を動かすことです。今回は「円を買ってドルを売る」という動きでした。円を買う人が増えれば円の値段は上がるので、行き過ぎた円安にブレーキをかける狙いがあります。

日本とアメリカがそろって動くのは、東日本大震災のあった2011年以来、15年ぶりです。円を買うために組むのは、アジア通貨危機のあった1998年以来、28年ぶりでした。

その背景にあったのが、記録的な円安です。7月下旬、1ドルは163円台まで下がりました。およそ39年半ぶりの安値です。政府・日本銀行は7月30日から8月1日にかけて断続的に市場へ入り、そのなかでアメリカと足並みをそろえました。
日本は今年4月末から5月にかけても、1か月として過去最大となる11兆7349億円を使って円を買っています。それでも円安は止まらず、1か月ほどで元の水準に戻りました。日本単独では支えきれない、という見方が市場に広がっていたところでの協調介入でした。
今日、読み比べるのは、朝日新聞と日経新聞の記事です。ここまでの報道は、2つとも同じです。
朝日新聞は、この協調介入を、日本政府がアメリカを動かして実らせたものとして伝えました。
見出しは「インパクト大の『完成形』 米国との協調介入実らせた日本政府の狙い」です。記事は、財務省で為替を担当する三村淳財務官の言葉から始まります。「日米通貨同盟の完成形だ」。日本の通貨政策の責任者が、日米の結束をこう表現しました。
朝日新聞が前提に置いたのは、単独介入の限界です。4月末から5月の11兆円を超える介入でも円安は変わらず、7月下旬には約39年半ぶりの水準まで売り込まれていました。そこで、市場に対するインパクトが格段に大きい協調介入に踏み切った、という流れで書かれています。
日本単独では効かなかった介入が、アメリカと組むことで市場に通じた。朝日新聞が伝えたのは、その意味の大きさです。
日本経済新聞は、同じ協調介入を、アメリカ側の事情から書きました。
見出しは「協調介入、避けたかった米国債売却の悪夢 『友情』に透けるリアリズム」です。
この記事がまず取り上げたのは、今回用意された介入の仕組みでした。アメリカは、日本が持つアメリカ国債を担保にドルを貸し、日本がそのドルで円を買えるようにしたのです。円を買う介入は、手元のドルが尽きれば続けられません。その弱点を投機筋 (相場の値動きで利益を得ようとする人たち) に突かれないための備えでした。この仕組みはFIMAレポと呼ばれ、もともとは金融市場が混乱したときのために作られたものです。

トランプ大統領はこれを「友情の証し」と説明しました。けれども日経新聞は、その言葉の裏側を書きます。日本がアメリカ国債を売るとアメリカの金利上昇を招くため、その事態を避けたい計算があった、と。
日本は、外国の中でいちばん多くアメリカ国債を持っている国です。その日本が、介入のお金を作るためにアメリカ国債を売り始めたらどうなるか。アメリカ国債の価値が下がるだけでなく、いちばんの持ち主が売っているという事実そのものが、ほかの投資家にも売りを促します。アメリカの長期金利は上がり、住宅ローンなど暮らしの金利にもはね返ります。それを避けたかった、というのが日経新聞の見立てです。

もうひとつ、日経新聞が拾ったのは介入のやり方です。アメリカは、ドルを売って円を買うのではなく、持っていたユーロを売って円を買いました。自分でドルを売れば「ドル安でよい」という合図になってしまいます。協調の形はとりながら、「強いドル」は譲らなかったことになります。
どちらの新聞も、日本側とアメリカ側の両方を取材しています。朝日新聞にはアメリカ側の思惑を扱った別の記事があり、日経新聞にも日本政府の対応を伝えた記事があります。別々の出来事を伝えているわけではありません。
朝日新聞は、この協調介入のことを、日本がアメリカを動かしたという視点で伝えていました。日経新聞は、同じ協調介入のことを、アメリカ側にも計算があったという視点で伝えていました。
| 比べる点 | 朝日新聞 | 日経新聞 |
|---|---|---|
| 記事の主役 | 日本政府 | アメリカ政府 |
| 記事の柱 | 単独では効かなかった介入が、組むことで通じたこと | アメリカ国債と金利を守るための仕組み |
| 「友情の証し」の扱い | 日米の結束を示す言葉として | その裏にある計算を読み解く入口として |
7月31日に起きたことは、ひとつです。違ったのは、その出来事の主役をどちらの国に置いたかでした。
しかし、どちらに視点を置いたかで、同じ出来事が違って見えてきます。アメリカに助けてもらった話と読むか、日米が互いに必要だった話と読むか。今日は「為替介入」に関する、1つの事実、2つのニュースでした。
なお、円安が続いてきた背景には、日本とアメリカの金利の差や、国の予算と借金をめぐる市場の見方もあります。毎日新聞や日経新聞は、そこに高市政権の経済政策があると指摘しています。介入はこの流れを止めるものではなく、時間をつくるためのものだ、という見方が多く出ています。
このニュースから作った教材です。会員登録なしで無料でお読みいただけます。
今日の英語← クリックで表示されます
Japan and the U.S. bought yen together.
日本とアメリカは、いっしょに円を買いました。
「いっしょに」を表す語です。動詞のうしろに置いて、work together (いっしょに働く)、live together (いっしょに住む) のように使います。今回のニュースでは、2つの国がそろって動いたことを表しています。
答えを見る
The price of the yen went up.
円の値段が上がりました。
過去のことを言うとき、多くの動詞は -ed をつけますが、go は went、buy は bought のように形が変わるものがあります。これを不規則動詞といいます。今回のニュースの英文には went と bought の両方が出てきます。
The price of the yen ( ) up.
答えを見る
The two governments worked together to support the yen.
2つの政府は、円を支えるためにいっしょに動きました。
国を動かす仕組みのことです。the Japanese government (日本政府)、the U.S. government (アメリカ政府) のように使います。ニュースの英語では、国の名前ではなく government を主語にして「〜政府が決めた」と書くことがよくあります。
答えを見る
The U.S. bought yen because it wanted to protect its own market.
アメリカは、自分の市場を守りたかったので、円を買いました。
理由を表す接続詞です。うしろには文 (主語 + 動詞) が続きます。文の前半に置いて Because 〜, … の形にすることもできます。
The U.S. bought yen ( ) it wanted to protect its own market.
答えを見る
Japan and the U.S. carried out a joint intervention in the currency market.
日本とアメリカは、為替市場で協調介入を行いました。
「間に入って関わること」です。動詞は intervene です。経済のニュースでは currency intervention (為替介入)、joint intervention (協調介入) の形でよく出ます。医療では「治療の介入」、政治では「他国への介入」と、分野を問わず使われる語です。
答えを見る
The U.S. joined the action in order to protect its own bond market.
アメリカは、自国の国債市場を守るためにこの行動に加わりました。
目的を表します。うしろには動詞の原形が続きます。to だけでも同じ意味になりますが、in order to を使うと目的であることがはっきりします。論説やニュースでよく使われる形です。
The U.S. joined the action ( ) protect its own bond market.
答えを見る
今日の公民 (経済) - 円安・円高と、為替介入のしくみ← クリックで表示されます
- 1ドル=140円から1ドル=160円になることを円安といいます。同じ1ドルを手に入れるのに、より多くの円が必要になった状態なので、円の価値は下がっています。逆に1ドル=120円になれば「円高」です。数字が大きくなるほど円安、と覚えます。
- 日本の為替介入は、財務大臣 (財務省) が決めて、日本銀行が実際の売り買いを行います。今回は「円を買ってドルを売る」向きの介入で、円安にブレーキをかける狙いがありました。
- 複数の国が同時に行う介入を協調介入といいます。使った金額が同じでも、複数の国が「今の水準は行き過ぎだ」と一緒に示すことになるので、1国だけの介入より市場に届くメッセージが強くなります。
答えを見る
答えを見る
入試つながりメモ: 「円高・円安と輸出入への影響」「日本銀行の役割」は公民の定番です。今回のニュースは、その定番に「政府と中央銀行の役割分担」と「他の国と組むという選択肢」がついた形になっています。円安になると輸出企業には追い風、輸入品は値上がり、という基本もあわせて確認しておくと、資料問題で使えます。
漢字・語句← クリックで表示されます
| 語 | 読み | 意味 (記事での使われ方) |
|---|---|---|
| 介入 | かいにゅう | 間に入って関わること。「為替介入」 |
| 協調 | きょうちょう | たがいに歩調を合わせて物事を行うこと。「協調介入」 |
| 担保 | たんぽ | お金を借りるとき、返せなくなった場合に備えて預けるもの。「アメリカ国債を担保に」 |
| 金利 | きんり | お金を貸し借りするときにつく利息の割合。「アメリカの長期金利」 |
| 投機 | とうき | 値段の上がり下がりの差でもうけようとすること。「投機筋」(読めれば OK の発展語) |