#006「非核三原則」を見直すのか。8月6日の総理発言をめぐって
8月6日、広島は原爆が落とされてから81年を迎えました。この日、平和記念式典に出席した総理大臣は、非核三原則について「堅持しており」と述べました。そして年末に決める文書で書き方を変えるのかを問われると、「予断することは差し控える」と答えました。
同じこの発言を、朝日新聞と読売新聞が別の柱で伝えています。朝日新聞は、それで日本が何を失うのかを書きました。読売新聞は、なぜ明言しないのかという理由を書きました。この2つのニュースを、読み比べます。
ポイントQ&A
Q1. 日本が核兵器を持たないのは、憲法に書いてあるから?
書いてありません。憲法の第9条は戦争をしないことを定めていますが、核兵器そのものについては書かれていません。非核三原則は、1967年に当時の首相が国会で述べた答弁がもとになった政府の方針です。国会でも複数回、国是として堅持する決議が行われてきました。
憲法・法律・政府の方針は、変えるための手続きがそれぞれ違います。今回のニュースが「年末に決める文書にどう書くか」という話になっているのは、三原則が方針だからです。
Q2. 3つのうち、いちばん議論になっているのはどれ?
3つ目の「持ち込ませず」です。日本はアメリカと安全保障条約を結んでおり、アメリカの核兵器によって守られているとされています。核兵器を積んだアメリカの潜水艦が日本の港に入れるかどうかが、この原則に関わってきます。
2010年には当時の外務大臣が国会で、有事のときには例外があり得るという認識を示しました。読売新聞の記事に出てくる「実際の弊害は小さい」という与党幹部の声は、この例外があることを言っています。同じ1つの原則でも、3つの中身で重さが違います。
Q3. 2つの新聞は、どちらが正しいの?
どちらが正しいという記事ではありません。2つの新聞は、首相が「堅持しており」と述べ、将来については言わなかったという同じ事実から出発しています。そのうえで朝日新聞は「それで何を失うか」を、読売新聞は「なぜそうなっているのか」を書きました。
積み上げてきた信用を重く見るか、いまの安全保障の事情を重く見るか。この2つは、どちらかが事実を間違えているのではなく、どこに目を向けるかが違っています。読み比べるとき見るべきなのは、どちらが正しいかではなく、自分はどちらの問いを先に考えたいかです。
出典 (参照したニュース)
文字起こし (動画のナレーション全文)
タイトル8月6日、広島は、原爆が落とされてから81年を迎えました。この日に総理大臣が話した言葉が、いま議論になっています。テーマは「非核三原則」です。核兵器を、持たない、作らない、持ち込ませない、という日本の方針です。同じ発言を、朝日新聞と読売新聞が、別の柱で伝えました。この2つのニュースを、読み比べます。
1つの事実まず、2つの新聞が同じように書いていることから見ます。総理大臣は、広島の平和記念式典に出席しました。あいさつでは「堅持しており」と述べました。堅持とは、しっかり守り続けるという意味です。そのあとの会見で、年末に決める文書で三原則の書き方を変えるのか、と聞かれました。答えは「予断することは差し控える」でした。今の時点では言わない、という意味です。今ある文書には、堅持する方針は今後も変わらない、と書かれています。この答え方を、朝日新聞は被爆者の批判として、読売新聞は指摘という形で伝えました。
朝日新聞は、何を伝えたか朝日新聞が中心に置いたのは、被爆地の人たちの言葉でした。社説の見出しは「国是」です。国の基本の方針、という意味の言葉です。被爆者からは、見直さないという決意が見えなかった、という声が出たと伝えています。広島県知事の、核抑止力を求めること自体が新たな戦争を引き起こしている、という指摘も載せました。核抑止力とは、核兵器があれば相手も攻撃してこない、という考え方です。そのうえで、失うものを挙げます。日本は昨年まで32年続けて、国連に核兵器をなくす決議案を出してきました。その土台が三原則であり、書き方を変えれば積み上げた信用を失う、と書いています。
読売新聞は、何を伝えたか読売新聞が柱にしたのは、なぜ明言しないのか、という理由でした。記事は、アメリカの核抑止力を縛っている、という問題意識があるのではないか、と見ています。総理大臣は就任前の本で、持ち込ませないという部分は現実的ではない、と書いていました。ただし読売新聞は、動きにくい理由も同じだけ並べています。与党の幹部からは、実際の弊害は小さい、という声が多いこと。政府の会議でも、賛成と反対の両方が出ていること。そして、自民党の提言には、書き方を変えることが盛り込まれなかったことです。
2つの視点・まとめ2つの記事は、同じ日の、同じ答えを出発点にしています。朝日新聞が書いたのは、それで何を失うのか。読売新聞が書いたのは、なぜそうなっているのか、でした。失うものを数えるか、理由をたどるか。同じ言葉から、たどり着く先が違います。今日は「非核三原則」に関する、1つの事実、2つのニュースでした。
まず、2つの新聞が同じように書いていることから見ます。
8月6日、総理大臣は広島の平和記念式典に出席しました。あいさつでは「我が国は非核三原則を堅持しており」と述べています。堅持とは、しっかり守り続けるという意味です。

そのあとの記者会見で、年末に決める安全保障の文書で三原則の書き方を変えるのかと問われました。答えは「書きぶりについて私が予断することは差し控える」でした。今の時点では言わない、という意味になります。

いま使われている文書には、三原則を堅持する基本方針は今後も変わらない、と書かれています。つまり問われていたのは、この一文をこのまま残すかどうかでした。
この答え方について、朝日新聞は被爆者の「現状説明に過ぎない」という批判を伝え、読売新聞は「現状説明にとどまるとの指摘が出ている」と書きました。受け止め方の紹介のしかたまで似ています。出来事そのものは、どちらの記事も同じように伝えています。
朝日新聞が中心に置いたのは、被爆地の人たちの言葉でした。
7日の社説は、見出しに「国是」という言葉を使っています。国の基本の方針、という意味です。核兵器を持たず、作らず、持ち込ませずという三原則は、歴代の政権が守ってきた政策というだけではなく、戦争で原爆の被害を受けた国としての国是である。そう書いています。
記事は、被爆者から「見直さないという決意が見えなかった」という声が出たことを伝えました。広島県知事の「核抑止力を求めること自体が新たな戦争を引き起こしている」という指摘も載せています。核抑止力とは、核兵器を持っていれば相手も攻撃してこない、という考え方です。
そのうえで、失うものを挙げます。日本は昨年まで32年続けて、国連に核兵器をなくす決議案を出してきました。その土台が三原則であり、書き方を変えれば積み上げた信用を失う。さらに、核兵器は使われてはならないという「核のタブー」が揺らいでいるいま、その弱まりに拍車をかけかねない。そう書いています。

この記事を読み終えて残るのは、積み上げてきたものが崩れるのではないか、という心配です。
読売新聞が柱にしたのは、なぜ明言しないのか、という理由でした。
7日の記事は見出しで、アメリカの核抑止力を「縛っている」との問題意識があるのではないか、と書いています。持ち込ませないという原則があると、核兵器を積んだアメリカの潜水艦が日本の港に入ることも認められない。それが抑止力を弱めるという見方です。総理大臣は就任前の本でも、持ち込ませないという部分は現実的ではない、と書いていました。
ただし記事は、動きにくい理由も同じだけ並べています。与党の幹部からは、有事には例外を認めうるという政府の見解がすでにあるので実際の弊害は小さい、という声が多いこと。政府の会議でも賛成と反対の両方が出ていること。そして自民党が政府に出した提言には、三原則の書き方を変えることが盛り込まれなかったことです。

読み終えると、見直しの動きはある。ただ実際には進みにくい。その両方が同時に見えてきます。
2つの記事は、同じ日の、同じ答えを出発点にしています。首相が「堅持しており」と述べ、将来については言わなかった。この事実の受け止め方も同じです。
違うのは、そこから先でした。

| 比べる点 | 朝日新聞 | 読売新聞 |
|---|---|---|
| 何を中心に置いたか | 被爆地の人の声 | 政治の内側の動き |
| 発言をどう位置づけたか | 前年より後退した | 持論が反映されたもの |
| 主に使った材料 | 被爆者と知事の言葉、32年続けた決議 | 首相の著書、党や政府の関係者の発言 |
| 先行きの見立て | 書き方を変える地ならしが進んでいる疑い | 賛否が分かれていて進みにくい |
| 読み終えて残るもの | 失うものへの心配 | 動きの見取り図 |
朝日新聞が書いたのは、それで何を失うのかということでした。読売新聞が書いたのは、なぜそうなっているのかということでした。
失うものを数えるか、理由をたどるか。同じ言葉から、たどり着く先が違います。
今日は「非核三原則」に関する、1つの事実、2つのニュースでした。
このニュースから作った教材です。会員登録なしで無料でお読みいただけます。
今日の英語← クリックで表示されます
Japan does not have nuclear weapons.
日本は核兵器を持っていません。
weapon は「武器」です。nuclear (核の) をつけた nuclear weapons で「核兵器」になります。ニュースでよく出る組み合わせなので、2 語をセットで覚えると読みやすくなります。
答えを見る
The Prime Minister did not answer the question.
総理大臣は、その質問に答えませんでした。
過去のことを「〜しなかった」と言うときは、did not のうしろの動詞を原形に戻します。answered ではなく answer になるのがポイントです。短くするときは didn’t answer と書きます。
He did not ( ) the question.
答えを見る
Hiroshima marked 81 years since the atomic bombing.
広島は、原爆が落とされてから81年を迎えました。
mark は「印をつける」が元の意味ですが、年月とともに使うと「〜の節目を迎える」という意味になります。atomic bombing は「原爆の投下」です。ニュース英語でよく使う言い方です。
答えを見る
The two papers reported the same words in different ways.
2つの新聞は、同じ言葉を違う形で伝えました。
the same のうしろは「同じもの」、different のうしろは「違うもの」が来ます。in different ways は「違うやり方で」という意味の決まった言い方です。同じ文の中で 2 つを並べると、読み比べの対比がそのまま英語になります。
They told the same story in ( ) ways.
答えを見る
The Prime Minister declined to say whether the wording would be changed.
総理大臣は、その書き方が変えられるかどうかについて、言うことを控えました。
decline は「断る・辞退する」で、decline to say は「言うことを控える」という言い方です。ニュースでは refuse (拒む) よりも角が立たない表現として使われます。wording は「言葉づかい・書きぶり」です。
答えを見る
Japan has submitted a nuclear disarmament resolution to the UN for 32 years.
日本は32年にわたって、国連に核軍縮の決議案を提出してきました。
have + 過去分詞に for 〜 をつけると、「〜の間ずっと続けてきた」という意味になります。過去形の submitted だと「そのとき出した」だけになり、続けてきたことが伝わりません。disarmament は「軍縮」です。
Japan ( ) the resolution for 32 years.
答えを見る
今日の公民 - 平和主義と非核三原則← クリックで表示されます
- 日本国憲法は前文と第9条で平和主義をかかげ、戦争をしない方針を定めています。
- 非核三原則は、核兵器を「持たず、作らず、持ち込ませず」という政府の方針で、1967年の首相の国会答弁がもとになり、国会でも複数回決議されました。
- 憲法は改正の手続きが決まっていますが、政府の方針は文書の書き方を変えることで動きます。だから今回は「文書にどう書くか」が争点になりました。
非核三原則は法律ではなく、政府が守ると決めた方針です。国会で「国是」として堅持する決議が複数回行われてきたので、法律に近い重さを持って扱われてきました。
3つのうち「持ち込ませず」だけは、扱いが少し違います。2010年に当時の外務大臣が国会で、有事のときには例外があり得るという認識を示しました。今回の記事に出てくる「実際の弊害は小さい」という与党幹部の声は、この例外があることを言っています。
日本はアメリカと安全保障条約を結び、アメリカの核兵器によって守られているとされています。これを「核の傘」と呼びます。核抑止力とは、核兵器を持っていれば相手も攻撃してこないという考え方です。「核の傘に入りながら核をなくそうと訴える」という立場をどう説明するかが、この問題のむずかしいところです。
答えを見る
答えを見る
入試つながりメモ: 公民では「平和主義」が日本国憲法の三大原則の1つとして問われます。前文と第9条、自衛隊と日米安全保障条約、そして非核三原則が一続きの単元です。憲法・法律・政府の方針で変える手続きが違うという点は、記述問題で問われやすい要点です。今回のニュースは、方針を「文書にどう書くか」という形で問われた例にあたります。
漢字・語句← クリックで表示されます
| 語 | 読み | 意味 (記事での使われ方) |
|---|---|---|
| 堅持 | けんじ | 考えや方針を変えずに、しっかり守り続けること。「我が国は非核三原則を堅持しており」 |
| 予断 | よだん | 前もって判断すること。「書きぶりについて私が予断することは差し控える」 |
| 国是 | こくぜ | 国が正しいと決めた基本の方針。朝日新聞の社説の見出しに使われた語 |
| 抑止 | よくし | 相手が動き出すのをおさえて止めること。「核抑止力」の形で出てくる |
| 規範 | きはん | 守るべきものとして定まっている決まりや手本。「揺らぐ規範」 |