#005無料で配られた入場者特典に値がついた「映画ちいかわ」
「2つのニュース」です。今日は「映画ちいかわの入場者特典」について、1つの事実、2つのニュースをお届けします。
映画「ちいかわ」を見に行った人に無料で配られるはずのものに、その日のうちに値段がついた。この出来事を、オリコンニュースは買えなかった人の気持ちという視点で、宣伝会議は止める仕組みが効いているかという視点で伝えました。同じ日に出た2本の記事ですが、目を向けた先はそれぞれ違っていました。
ポイントQ&A
この号のポイントを、3つのQ&Aで整理します。
Q1: 無料でもらったものを高く売るのは、法律違反だと思いますか?
A: 違反ではありません。チケット不正転売禁止法が対象にしているのはチケットだけで、無料で配られる入場者特典は入っていないからです。意外に思った方も多いのではないでしょうか。
Q2: 法律で禁止されていないのなら、何が転売を止めているのでしょうか?
A: 配る側である映画館の決まり (1人につき1つ)、公式サイトの「転売禁止」という約束、フリマサイトの対応です。罰ではない「きまりを守らせる力」が、いくつも働いています。
Q3: もしあなたがフリマサイトの会社の社長なら、どうしますか?
A: 3か月前のマクドナルドのおもちゃでは、メルカリが売り始める前に出品禁止を決めました。正解のない問いですが、「自分ならどうするか」を考えながら読むと、対策のニュースの見え方が変わってきます。
出典 (参照したニュース)
- オリコンニュース「転売ヤー消えてくれ!」『映画ちいかわ』入場者特典フィギュア&グッズ転売にファン激怒
- 宣伝会議 AdverTimes.またまた”転売祭り”か 映画ちいかわ、公開初日から特典出品続々 ポップコーンボックス入り9999円セットも、公式の対策はどこまで通じるか
文字起こし (動画のナレーション全文)
タイトルこんにちは。「2つのニュース」です。今日は「映画ちいかわの入場者特典」について、1つの事実、2つのニュースをお届けします。この出来事を、オリコンニュースは買えなかった人の気持ちという視点で、宣伝会議は止める仕組みが効いているかという視点で伝えました。この2つのニュースを、読み比べます。
1つの事実7月24日、映画「ちいかわ」が公開されました。見に行った人には、その場でしか手に入らない入場者特典が配られます。全8種類から1つが当たる、小さなフィギュアです。公式サイトには、非売品なので転売は禁止です、と書かれていました。それでも、公開初日の午前中から、フリマサイトに出品されました。映画は大ヒットしています。公開10日で、興行収入44億円、観客305万人。コンサートなどのチケットを、定価より高く売り続けることを禁じる法律はあります。ただしこの法律の対象はチケットで、無料で配られる特典は入っていません。公式サイトの「転売禁止」は、お店とお客さんの約束です。3か月前には、同じちいかわで、別のことが起きていました。マクドナルドのおもちゃを、メルカリが、売り始める前から出品禁止にしたのです。今日読み比べるのは、7月24日に出た、オリコンニュースと宣伝会議の記事です。出来事そのものは、2つとも同じように伝えています。
オリコンニュースは、何を伝えたかまず、オリコンニュースは、何を伝えたか。オリコンニュースは、買えなかった人の気持ちを、記事の中心に置きました。「転売ヤー消えてくれ」。記事は、そうしたファンの声を並べています。値段は1個1100円以上。無料でもらえるはずのものに、値がつきました。
宣伝会議は、何を伝えたか続いて、宣伝会議は、何を伝えたか。宣伝会議は、広告や販売の仕事をする人が読むニュースサイトです。記事の見出しは「公式の対策はどこまで通じるか」。止める仕組みの側から書いています。特典は1人に1つ。座席を何枚買っても、1個しかもらえません。映画館は、ポップコーンの箱なども、1回の会計で3個までにしていました。それでも出品は続きました。見出しの「またまた」が、初めてではないことを表しています。
2つの視点・まとめ2つの記事は、同じ日に、同じ出来事を見ています。違うのは、人を見たか、仕組みを見たかです。オリコンニュースが見たのは買えなかった人、宣伝会議が見たのは配る側の決まりでした。3か月前には、売る場所の側が、売り始める前に手を打った例もありました。片方は人に、もう片方は仕組みに目を向けていました。止め方は、1つではありません。今日は「映画ちいかわの入場者特典」に関する、1つの事実、2つのニュースでした。
7月24日、映画「ちいかわ 人魚の島のひみつ」が公開されました。見に行った人には、その場でしか手に入らない入場者特典が配られます。
第1弾は、映画特別デザインのチャームミニフィギュアでした。ちいかわ、ハチワレ、うさぎ、モモンガ、くりまんじゅう、ラッコ、シーサー、古本屋の全8種類から1つが当たります。種類は選べません。劇場によって数に限りがあり、なくなり次第終了です。
公式サイトには、配り方の決まりが並んでいます。1人につき1つ。同じ上映回の座席指定券を何枚持っていても、受け取れるのは1つだけ。チケットを買うときではなく、シアターに入るときに渡す。入場前と退場後には渡さない。数や残りについて劇場に問い合わせるのも控えてほしい。そして、入場者特典は非売品で、転売は一切禁止だと書かれています。

それでも、公開初日の午前中から、フリマサイトに出品されました。
映画は大ヒットしています。公開から10日で、興行収入は44億円を超え、観客は305万人を超えました。

転売については、日本に法律があります。コンサートなどのチケットを、くり返し売るつもりで定価より高く売ることを禁じる法律で、2019年に始まりました。破ると罰があります。
ただし、この法律が対象にしているのはチケットです。日時と場所と座席が指定され、券面に転売禁止と書かれ、買った人の名前と連絡先を確かめている、という3つの条件をすべて満たしたものだけが対象になります。無料で配られる入場者特典は、この法律の対象には入っていません。

つまり公式サイトの「転売禁止」は、法律ではなく、配る側とお客さんとの約束です。

3か月前には、同じちいかわで、別のことが起きていました。マクドナルドのハッピーセットで配られるおもちゃについて、メルカリが、売り始める前に出品禁止を決めたのです。5月9日に発表し、販売初日の5月15日の朝5時から禁止しました。出品されたら削除し、くり返す利用者には制限をかけ、AIと人の目で見張るという内容でした。

今日読み比べるのは、7月24日に出た、オリコンニュースと宣伝会議の記事です。出来事そのものは、2つとも同じように伝えています。
オリコンニュースは、買えなかった人の気持ちを記事の中心に置きました。
記事はまず、公式サイトの注意書きを長く引用しています。1人につき1つ。渡すのはシアターに入るとき。非売品なので転売は禁止。守るべきことは示されていた、という前置きです。
そのうえで、フリマサイトでの取引を伝えます。1個1100円以上で取引されていて、未開封の10点セットは2万5000円以上になっている、と書いています。
記事の多くを占めるのは、Xに投稿された声です。「転売ヤー消えてくれ」。記事は、こうした投稿を並べています。
その日のXでは、「チャームミニフィギュア」がトレンドの1位に、「入場者特典」が2位になりました。
無料でもらえるはずのものに、値がついた。オリコンニュースが伝えたのは、その悔しさです。
宣伝会議は、広告や販売の仕事をする人が読むニュースサイト「アドタイ」を出しています。同じ7月24日の記事の見出しには、「公式の対策はどこまで通じるか」という問いが置かれていました。
この記事は、Xの批判を紹介したうえで、自分でフリマサイトを見て確かめています。公開初日の時点で入場者特典が多数出品されていて、1個2000円前後の値が目立ったこと。ドリンクカップホルダーやポップコーンボックスとのセットもあり、9999円で出ているものもあったこと。記事はそう書いています。
そのうえで、配る側がすでに打っている手を並べます。特典は1人につき1つで、座席指定券を何枚持っていても1つだけ。チケットを買うときではなく、入場するときに渡す。数や残りの問い合わせも控えてほしい。
あわせて売られているポップコーンボックス (3500円) とドリンクカップホルダー (2000円) にも制限があります。TOHOシネマズなどは、1人1会計につき各3点までにしています。
それでも出品は続きました。見出しの「またまた」は、これが初めてではないことを表しています。
止める手は打たれている。それがどこまで効いているのか。宣伝会議が記事の柱にしたのは、この問いです。
どちらの記事も、7月24日の同じ出来事を伝えています。片方が何かを隠しているわけではありません。オリコンニュースも公式サイトの決まりを長く引用していますし、宣伝会議もXの批判を紹介しています。違うのは、どこに力点を置いたかです。
オリコンニュースは、この出来事のことを、買えなかった人の気持ちという視点で伝えていました。宣伝会議は、同じ出来事のことを、止める仕組みが効いているかという視点で伝えていました。
| 比べる点 | オリコンニュース | 宣伝会議 |
|---|---|---|
| 記事の主役 | 買えなかったファン | 配る側の仕組み |
| 記事の柱 | 無料の特典に1100円以上の値がついたこと | 1人1つなどの決まりが、どこまで効いているか |
| 読み終えて残るもの | 悔しい、という気持ち | どうすれば止まるのか、という問い |
7月24日に起きたことは、ひとつです。違ったのは、その出来事のどこを見たかでした。
片方は人に、もう片方は仕組みに目を向けていました。3か月前のハッピーセットでは、売る場所の側が、売り始める前に手を打ちました。止め方は、1つではありません。
なお、第1弾の配布は8月7日で終わり、8月8日からは第2弾のボンボンドロップシールが配られます。公式サイトが示す配り方の決まりは、第2弾でも同じです。
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The gifts are not for sale.
その特典は、売り物ではありません。
「売ること」を表す名詞です。for sale で「売り物である」という意味になり、not for sale で「非売品」です。お店の窓に For Sale と貼ってあれば「売っています」、美術館の作品に Not for Sale とあれば「これは売り物ではありません」ということです。動詞の sell (売る) と形が似ているので、あわせて覚えると混ざりません。
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Some people sold the gifts online.
一部の人は、その特典をネットで売りました。
sell (売る) の過去形と過去分詞は、どちらも sold です。sell – sold – sold と変わる不規則動詞で、selled のような形にはなりません。同じように語の中の母音が変わる仲間に、tell – told – told (伝える)、hold – held – held (持つ) があります。
Some people ( ) the gifts online.
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The theater gave one gift to each customer.
映画館は、お客さん1人につき1つの特典を渡しました。
数えられるものを1つずつ取り上げるときに使います。each のうしろは単数になるので、each customer (お客さん1人ひとり) であって each customers ではありません。動詞も単数に合わせます。each of us (私たちのそれぞれ)、each day (毎日) のような形でも出てきます。
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The gifts were sold on the internet.
その特典は、ネットで売られました。
「〜される」を表す形です。be動詞 + 過去分詞で作ります。ここでは主語が The gifts (複数) で過去の話なので were を使い、sell の過去分詞 sold を続けています。誰が売ったかを言わなくてよいのが受動態の便利なところで、ニュースの英語でとてもよく使われます。誰がしたかを示すときは by をうしろに足します。
The gifts ( ) sold on the internet.
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The law does not cover free items like these gifts.
その法律は、こうした特典のような無料の品物を対象にしていません。
「おおう」が元の意味ですが、そこから「範囲に含む」「対象にする」の意味に広がりました。保険や法律の話でよく出る使い方で、The insurance covers the damage. (その保険は、その損害を対象にしている) のように使います。ニュースでは、規則がどこまで及ぶかを書くときにこの語が出てきます。
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A rule that has no penalty is hard to keep.
罰のない決まりは、守るのがむずかしいものです。
前にある名詞を、うしろの文でくわしく説明する形です。ここでは A rule (ある決まり) を、that has no penalty (罰がない) が説明しています。that が説明する文の主語の役目をしているので、主格の関係代名詞と呼びます。人にも物にも使えるのが that の特徴で、物なら which、人なら who に置きかえられます。
A rule ( ) has no penalty is hard to keep.
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今日の公民 - きまりと法律← クリックで表示されます
- きまりには、法律と、それ以外の約束があります。法律は国が決めて、破った人に罰を与えることができます。一方、お店や会社が決めて客に求める決まりは約束であり、破っても法律の罰はありません。ただし、取引を断られたり、会員をやめさせられたりすることはあります。
- チケット不正転売禁止法は、2019年に始まりました。コンサートなどのチケットを、くり返し売るつもりで定価より高く売ることを禁じる法律です。ただし対象は「特定興行入場券」に限られ、①券面に転売禁止と書かれている ②日時と場所、座席 (または入場する人) が指定されている ③買った人の名前と連絡先を確かめている、という3つをすべて満たすチケットだけが当てはまります。破ると、1年以下の拘禁刑 (刑務所に入る刑) か100万円以下の罰金、またはその両方です。
- 無料で配られる入場者特典は、この法律の対象には入りません。チケットではないからです。だから公式サイトの「転売禁止」は、法律ではなく、配る側とお客さんとの約束にあたります。約束を守らせるには、別の手だてが要ります。3か月前のハッピーセットで、売る場所であるフリマサイトの側が出品そのものを止めたのは、その一例です。
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入試つながりメモ: 公民では「きまり (ルール) と法」の単元が入口です。法には、社会の対立を防いで合意をつくる役割があり、だれもが守るべき決まりを、あらかじめ文章にしておくという点が要点になります。今回のニュースは、法律でカバーされていない場面をどう扱うかという応用問題です。関連して、消費者の権利と責任、市場経済における需要と供給 (欲しい人が多く、数が少ないと値段が上がる) にもつなげられます。新しい問題が出てきたときに、法律をつくるのか、事業者どうしの取り決めで対応するのかは、公民の記述問題で問われやすい論点です。
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| 語 | 読み | 意味 (記事での使われ方) |
|---|---|---|
| 転売 | てんばい | 一度買ったり受け取ったりしたものを、別の人に売ること。「公開初日の午前中から、フリマサイトに出品されました」 |
| 非売品 | ひばいひん | 売り物ではない品物。「入場者特典は非売品で、転売は一切禁止だと書かれています」 |
| 特典 | とくてん | ある条件を満たした人だけが受けられる、特別なあつかい。「その場でしか手に入らない入場者特典」 |
| 興行収入 | こうぎょうしゅうにゅう | 映画館などで、その作品が集めた入場料の合計。「興行収入は44億円を超え」 |
| 出品 | しゅっぴん | 売るために品物を出すこと。「フリマサイトに出品されました」 |